服部 幸應さん (学)服部学園理事長/医学博士

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2004年09月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時59歳)

「食」は人に良く、「食育」は人を育む

「料理の鉄人」に始まり「SMAP×SMAP」「愛のエプロン3」など、今やテレビの料理・グルメ番組には欠かせない顔に。
にこやかでソフトな語り口に女性ファンも多いが、表の顔は意外と硬派だ。現在は内閣府の委員や「食育調査会」アドバイザーとして、次代の日本をつくるために、全国の小中学校を精力的に回っている。
日本の食生活を立て直すには100年かかるかもしれないと憂えつつも、食育にかける期待と情熱は誰よりも強く熱い。

◎おいしい食事は免疫力を高める

「食という字を分解すると『人に良い』になります。人に良いものが食だし、人を良くしなければならないのも食です。ここから、人を良くすることを育むのが『食育』だと僕は唱えているんです」学園の入学生に箸遣いのゲームをさせたら、箸で豆をつまめない者が多かった。
本来は家庭の躾でやっていたのが、核家族になって3世代たち、衣食住の伝承がおろそかになった結果である。
そこで日本の教育の“知育・徳育・体育”の3本柱に、家庭ではできない“食育”を組み込んでほしいと、これまで働きかけてきた。この秋にも「食育基本法」が国会で成立する見通しだという。
「食育」は次の3つのカテゴリに分けられる。1つ目は、どんな食品が安全かを教えること。安全でおいしい食事は免疫機能も高めるそうだ。
「たとえば病院は、食欲を満たす食事に乏しいですね。まず照明が悪い。蛍光灯は赤を紫にというように、食欲を減退させる色に見せてしまいます。それと病棟に漂う排泄物の臭い。こうした環境整備はとても大切で、それに料理がまずいと気が落ちて体内にコルチゾールという副腎皮質ステロイドホルモンが増加して免疫機能が低下し、病気が治りにくくなってしまいます。逆においしそうな料理は嗅覚や視覚を刺激してセロトニンなどの脳内物質を放出し、唾液の分泌を促して食欲を増します。だから介護される方は、環境整備をきちっとしてあげることで免疫機能を維持でき、結果として病気も治りやすくなるんですね」

◎しっかり躾けて、他者を思いやる

食育の2つ目は躾。箸を正しく持てない上に、基本の挨拶ができない子供も多い。
「いいことをしたらほめ、悪いことをしたら手の甲とおしりをパンと叩きます。このとき夫婦は同じ目線で子供を見る必要がありますね」こうした躾は8歳までに終わらせなければいけないという。「8歳というのは、脳は10歳で完成するため、なぜ?という疑問を持つ前に叩き終える必要があるからなんです」と服部さん。
さて学校教育の最終目標は、幼稚園・保育園が他人のものをとらない、小学校が協調性で中学が社会性、高校が志であるが、それ以前の躾の段階ですでに破綻しているのが現状だ。
「ですから学園での2年間で、躾から始まり社会性や志まで教えて出してやらなければならないんですよ」と苦笑する。
食育の3番目は、食を通じて広く食糧問題や環境問題などにも言及すること。
現在の日本の自給率は、カロリーベースで40%まで落ち込んでいる。
ところが残飯の量は26%と世界一多い。世界人口の92%が貧しく、8億2千万人が栄養失調に苦しみ、1日に4万人が餓死しているというのに、日本人は残り8%の中にいて豊かな食生活を享受しているのだ。
「日本人は罪なことをしているという観点からものが見えるように教育していかないと、いつまでたっても平気で食べ物を捨てるようになってしまうと僕は思いますね」

◎正しい食事で健康寿命を延ばす

日本は長寿国であり、特に女性の平均寿命は85.23歳(平成14年)で男性78.32歳と共に世界一高い。
しかし寝たきりや呆けのお年寄りが先進国中で最も多いのも、また事実である。
人生のうち元気で健康にすごせる長さを健康寿命というが、日本人は平均寿命と健康寿命の差が男女で約7年と、欧米よりも長い。つまり介護する期間がその分長いということだ。
「これを食育によって3年に縮められたらと。それと今までは考えられなかった非常識が増えてきましたね。うちでは新入生におふくろの味を作りなさいと材料を渡すんですが、何も見ないままだと9割がメチャメチャなものを作ります。留学生はたいていきちんとしたものを作りますけど。僕は76か国ほど回りましたが、日本だけですね、子供たちが基本的な料理の知識も知らないのは」家庭での食の荒廃は孤食、バラバラ食へと拡大し、食卓上の加工食品の割合も7割になった。
人として子供に教えなくてはならない本能のようなものが親の中からなくなったと、服部さんは警告する。
「食育については、とにかく健康寿命を延ばすことが第一ですね。介護される期間が短いことが、その人の幸福にもつながるわけだから。それには3歳頃からの正しい食生活が大切です。それと中学を出るまでに、何も見ないで20品目の基本料理ができるようにしたい。ぼくはそんな目標を立てているんですよ」