森 祗晶さん 野球解説者

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2000年10月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時63歳)

成功のカギは、勝負以前にある

森祗晶氏の記録を振り返ると、改めてそのすごさに驚く。
巨人の選手時代にはリーグ優勝16回、日本一は11回。現役引退後は、ヤクルトのコーチ時代にリーグ優勝1回、西武コーチ時代にリーグ優勝2回、日本一3回を果たした。
1986年に西武監督に就任。西武黄金時代を築き、パリーグ優勝9回、日本一6回を果たすという偉業を成し遂げている。
現在は野球解説者として活躍中。勝利を極めた森さんの監督業の秘訣と人材育成論について聞いた。

◎マスコミに迎合することなく信念を貫き『管理野球』をまっとう

森さんといえば、巨人の選手時代からコーチ時代、西武監督時代と相次ぐリーグ優勝、日本一を経験してきた名選手、名監督として名高い。
厳しい指導ぶりで知られ、チームを勝利に導いてきた。しかし、優勝しても主役はあくまで選手たちだといい、必要以上に前に出ようとしない謙虚さに、周囲からの信頼は篤い。
インタビューの時も、控えめな口調で語る森さんに、偉業を成し遂げてきた勝者の奢りは微塵も感じられなかった。
森さんの野球が『管理野球』とマスコミから揶揄されたのは西武時代からだ。
マイナスイメージのある『管理』という言葉だが、森さんは管理こそ必要だという。
「どの世界にだって、ひとつの組織にはシステムとルールがある。それをスムーズに動かしている技術が『管理』だと思います。会社だって同じです。管理は重要ですよ」。
例えば、高校野球からすぐに球団入りしたような選手は、社会人として何も知らない場合も多いが、周りはスタープレーヤーだからとちやほやする。
森さんが、親心から社会常識も含めた教育をすると“厳しい”とマスコミから非難された。
それでも、信念を貫き通し、マスコミ向けにソフトさでごまかすことはなかった。

◎“監督業”は企業でいえば中間管理職のようなもの

監督業とは、企業でいえば中間管理職のようなもの、「雇われ部長くらいだよ」と森さんはいう。
実際の職務は、球団、親会社からフィールドを一手に任され、ゲーム中での決断、戦術、采配など、一企業の経営者的性格をもっている。
しかし、権限はフィールド内に限られ、そのほかは何の権限もないが、責任だけは強く求められる。
構造的にはつらい立場にある。
「多くの人は、監督は多大な権限があると見がちだけれど、実際は何もない。選手も同様で、スター選手は自分だけの力でのし上がったと錯覚しがちだけれど、一球団のブランドの中のひとりの選手にすぎない。個々に与えられた役割をこなすだけ。企業で営業や企画がいて、協力しあって仕事をしているのと同じです」。
管理職である監督の成功のカギ、すなわち勝敗の分かれ目は、勝負以前にあるというのが森さんの持論だ。
「監督というのは、目配り、気配りがもっとも大切です。いかに選手を気持ちよくグランドに出してやるか─。その環境づくりが管理職の仕事ですよ。それと、自分というものを捨て切れるかどうか。長く監督の座にしがみつきたいと思ったら、いい仕事はできません」。
時に、マスコミからの防波堤になったり、球団との間に立って選手を守ったり、監督の仕事というのは、ある時は親と同じ。
だからこそ、選手の指導には気を遣う。
特に若い選手には、言葉で怒っていうのではなく、常日頃からきちんとコミュニケーションをとって理路整然と話をし、次のステップへと導くよう心がけてきたそうだ。

◎解説者として心血注ぐ一方で大橋巨泉氏のリタイアは理想

現在は、NHK野球解説者を務める。
監督時代は叩かれる側だった森さんだが、自分が解説する時には、野球はプロセスが大事なのだから、結果において語るのではなく、全体を見て解説するよう心がけているという。
「監督時代に一番腹立たしかったのは、コーチも監督の経験もない選手上がりの解説者の解説でした。経験のない人が解説者になるなんて、他の世界ではまずあり得ない。そういう解説者は“自分でやってみろ”とこちらがいいたくなる解説をする。それが至極当然のように扱われている…。僕ら解説者は、だれしもが納得するような形で、ゲームの中での作戦を解きほぐしていくのが役目だと思うんだな」。
コーチ、監督を経て、今度は解説者としての役割に使命感を抱いている森さんも、今年で63歳を迎え、企業でいえば定年の年齢になった。
今後の人生設計を聞いてみた。
「僕の友人が大阪でケアハウスを建てたんですが、昔の老人ホームのイメージじゃない。施設も立派で明るい。残された人生を自由に生きる場になっているんです。ああいうのを見ていると、残された人生は自分のためにエンジョイするという考え方はいいと思う。世界中旅するのもいい。大橋巨泉さんのように、計画的にリタイアするのも理想ですね」。
具体的に老後をどう過ごすかという計画はまだ立てていないが、老後に対する新たなイメージは、森さんらしい緻密で冷静な判断のもと、どんどん膨らんでいるようだ。