衣笠 祥雄さん プロ野球解説者

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2000年04月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時53歳)

自然体で世界記録を更新

現役時代は広島東洋カープで活躍し、23年にわたる選手生活の間に2215試合連続出場の世界記録を達成。
けがを押してでも打席に立ち続ける彼を、人々は“鉄人”と賞賛した。1987年には国民栄誉賞を受賞、96年には野球殿堂入りも果たす。
現在はスポーツコンサルタントとして少年野球のコーチのほか、テレビではTBSのプロ野球解説者を務める。
数々の記録、受賞歴を持つ衣笠氏の野球観、人生観、老後観を聞いた。

◎2215試合連続出場記録で現役時代“鉄人”と賞される

その大記録は70年10月19日に始まり、87年10月22日まで綿々と続いた足かけ18年の世界記録である。
「自分なりに野球をしてきたら自然と記録ができていた」と気負いなく語る衣笠さん。
この記録は、ニューヨーク・ヤンキースのルー・ゲーリック選手の2130試合を85試合も上回り、96年にリプケンに破られるまで世界1位の座を守ってきた。
その柔和な表情、物腰とは裏腹に“鉄人”と呼ばれるゆえんがそこにある。
現役時代に受けた死球は、日本歴代2位の161球。これだけデッドボールを受け、時には骨折していても、バットさえ振れれば打席に立つ。
「一度も試合を休もうと思わなかった」というそのきまじめさ、すさまじいプロ根性がこの記録樹立の原動力となったといえるだろう。

◎いかに健康的に年を取るか50代になったら自己責任を

衣笠さんは2度のスランプを経験した。
1度目はプロ入りして10年目の73年。
「がむしゃらに10年やってきて、この練習のままじゃまずいなと思った」。
スランプを機に野球関連書物を読みあさり、自分のバッティング理論を納得できる形で言語化し、確立していった。
2度目のスランプは15年目の79年の前半。打率が落ち、葛藤が続いた。
今度は野球以外のジャンルの書物、ビデオを手あたり次第に読破、鑑賞して新境地を開き、翌80年には、ゴールデングローブ賞を受賞している。
スランプにあっても連続出場を成しえたのは、「トレーナーの的確なアドバイスが精神的な励みとなったから」と謙虚な姿勢を崩さない。
40歳になった時、限界を感じ引退を決意する。
現在、健康管理のために特別何もしていない。
引退後の1年間は身体を動かすことさえ敬遠しがちだったが、最近では汗をかくほどの散歩かストレッチ体操をときどきやる。
「プロ野球選手として長年激しい運動をしてきたから、(運動を)身体が要求する。運動すると身体が喜ぶのがわかります」と語り、さらに「いかに健康を維持して年を取るかは、自己責任でしょう。
人間はどうしても他人のお世話にならなきゃいけない。
50代になったら自分の老後を考えるべき。
僕ら団塊の世代は人口が多いですから、これからは何を楽しみとして生活していけるか模索する必要があると思います」と、老いに向き合う姿勢も真摯だ。
引退した今、野球界に対してはさまざまな思いがある。
特に野球がオリンピックの正式種目になった時には、中国が脅威になると予測する。
「日本のプロ野球は長い歴史がある分、アジアにおけるリーダーとしての責任があると思う。中国が本気でチームを作ったら、日本は勝てなくなるだろう。本来の日本のプロ野球設立の理念は、アメリカと対等に戦えるチームを目指していたはず。各球団とも商売意識が先行しすぎている。もっと高次なものを目指してほしい」。

◎野球という“遊び”を通じて生きる力を子どもたちに伝えたい

最近、小・中学生対象の野球教室のコーチをする機会が増えてきた。
衣笠さんは、細かな技術を教えるよりも、マインドを伝えたいという。
「野球を通して、なぜ頑張るのか、どうやって自信を持って生きるのか、頑張ったら楽しい、といった生きる力になるものを伝えられればと思う」。
衣笠さんの少年時代は、野球が遊びだった。
ユニフォームを着ることもなく、普段着のままでプレイしていた。
だが、今はいいグラブを買い揃え、チームごとにデザインされたユニフォームを新調するのが当たり前だ。
システム化した少年野球は、子どもたちにとって気楽な遊びではなくなり、“苦行”になりかねない。
「まるで小さなプロ野球選手みたいで…。親が喜ぶ気持ちもわかる。けれど、“遊ぶ”という発想が根底にあれば、もっと楽しいだろうと思う。スポーツという遊びを通じて、子どもたちが心から楽しいと思える野球チームを作りたい」。
ファンの間では「衣笠さんを監督に」の呼び声は高い。
将来、監督の話が来たら受けるかという問いには、「監督というのは野球の面白さを堪能できる仕事。依頼が来たらやってみたい。
ただし、高いレベルを要求するだろうから、選手にとっては口うるさい監督になるでしょうね」と笑顔で語った。
子どもたちからプロ選手まで、野球を楽しくかつ真摯に受けとめるマインドを伝える衣笠さん。“鉄人”監督の実現を一日も早く期待したい。