堀 紘一さん ボストン コンサルティング グループ社長

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2000年03月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時54歳)

高齢化の先頭を走る日本は“介護の達人”になる気概を

読売新聞経済部記者を経て、三菱商事勤務時代に派遣されたハーバード・ビジネススクールで最優秀学生として表彰された堀さんは、ここで徹底して“考える力”について学んだ。
現在は国内外の一流企業の経営戦略策定を支援しながら、執筆・講演・テレビ出演と超多忙の日々を送っている。
介護保険施行を目前にした今、景気の低迷と少子・高齢化に呻吟する日本への、真摯な直言と具体的な打開策を伺った。

◎介護保険はアゲインストの風の船出次代にツケをまわさない施策を

介護保険の導入を契機に、新たなシルバービジネスの展開による景気回復が期待されているが、これに対して堀さんは、「介護保険、大いに結構。でも介護を含めて福祉というのは、もともと関連産業への波及効果の度合いがもっとも少ないんです。これは経済学の基本常識ですよ」と、明快に解説する。
なぜなら投入される公的資金のほとんどが介護者や医療関係者の人件費に費やされてしまうので、介護保険は景気対策にはならない。
この点を理解しない発言も多く見られ、現在の小渕内閣自体が国の財源や将来のつじつまを考えずに、国民へ“いい顔主義”的なバラマキ政策をしている、というのが堀さんの見方だ。
「こうした中で介護保険のスタートが切られるわけで、船出をするのは大変喜ばしいことですが、ただし風はアゲインスト(逆風)なんだという現状認識が大切です。
この意味でも、介護保険は21世紀の日本の大きな課題のひとつになるでしょうね」。
堀さんはテレビ東京の情報ドキュメンタリー番組『ナビゲーター21』にもコメンテーターとして出演しているが、番組内で介護問題を取り上げる時に、どう発言しようかと悩むことが多いそうだ。
「つまり介護の世界に携わる人たち−専門家からボランティアまでさまざまなタイプの人がいますが、皆さん深い人間愛をお持ちなのと同時に、法律や経済、経営といった専門知識を欠いている点も共通しているんですね。
だから将来的にコスト面で危うい話が山ほどある。
反対に私の場合は専門が経営学ですから、介護関係者とはものの見方のモノサシが違うわけで、ある時には鋭い指摘になり、ある時は勘違いにもなる。
それが、いいも悪いも含めて、私の介護問題における只今の位置づけだと思っています」。
なるほど、コストというのは基本的にはサービスの提供者が一旦は(瞬間的には)負担するように見えても、実際には全部が納税者やユーザーのお金で支払われる仕組みになっているのですよ、と指摘する堀さんの発想は、経営の専門家らしく、一般常識の盲点を突いて大胆でしかも説得力にあふれている。
例えば、空港や公民館における利用率の低い身障者用トイレ。
もしそれがホテルの場合なら、各階に広いスペースを確保して全部設置するよりもスウィートルーム内に立派なトイレを設置してホテル利用の全身障者に利用してもらう。
この方が、多少は移動等に不便でも、結果的には利用率とコストが見合うことでユーザーの宿泊費も安くなり、今後の福祉施設建設の推進にも確実に効果がある、といった経営面からの発想もそうしたひとつである。

◎介護では世界のトップランナーの日本原点に戻り、謙虚な気持ちを忘れずに

堀さんご自身も、年齢的に介護問題と直面せざるを得ない年代にさしかかっている。
「私の81歳の父親と77歳の母親は健在でして、週1回家政婦さんに来てもらい、あとは少しだけ妹が手伝う以外は、幸い夫婦ふたりで助け合って生活できるという状況にありますが、いずれは何らかの介護を必要とする時も来るでしょう。私は長男でもあるし、すぐ下の妹は京都に住んでいて、末の妹はワーキングウーマンです。そうした意味で、私なり妹なりにメンタルにかかっている介護問題への“重み”はありますね」。
高齢化は先進各国共通の問題だが、その中でも日本はズバ抜けて急激な高齢化と少子化に直面している。
現在の出生率で推移すれば、百年後の日本の人口は半減し、それだけ次世代の負担も重くなる。
「日本には今、世界中の注目が集まって、その壮大な実験それも非常に危うい、そして多分破綻するに違いないであろう実験を皆で注目して見つめていると思いますよ」と、堀さんはいう。
「日本人は自分でクリエイトするのが下手だけど、見本があればそれを真似て改良するのは得意だからこれまでやってこられたが、なにせ今回は先頭を走ってしまっているわけです。こうした経験はあまりないから、どうしたらいいかわからず、矛盾だらけの迷走みたいに思われるんですね。それは指摘としては正しいけれど、われわれ日本民族というのはそういう資質だから、仕方ないんじゃないかと。だけど、もっと、皆で議論していい答えがないか模索して、場合によってはいつでも変える勇気を持つことも必要です」。
さらに堀さんは、われわれが介護の対象とするのは、肉体的には衰えていても脳の機能、意識のレベルでは正常な人が多い。何よりも人生の先達ということを忘れずに、こちらからお世話させてもらっているという謙虚な気持ちで向かい合わなければいけない、とも強調する。
「介護にはいろいろ制約もあるし、矛盾もあります。
でも一番肝心なのは効率の問題ではなく、僕らの資金力だとか能力や時間でこうしたサービスを必要としている人たちに最大価値を生めるのだろうか、というベーシックな問いかけを繰り返しすること。
そうすることで最後にわれわれは、世界史の中で“介護の達人”になるべく頑張ろうじゃないかと。
4月の介護保険施行を前に、是非とも原点なりスピリッツに立ち戻って考えていただきたいのです」。