櫻井よしこさん ジャーナリスト

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1999年10月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時53歳)

「与えられる介護から選択する介護へ、意識改革必要に」

日本テレビ系『今日のできごと』のニュースキャスタ−を16年間務め、お茶の間にもお馴染みの顔となった櫻井さんは、現在ジャーナリストとして活躍中。
現代社会が抱える諸問題を、鋭い問題意識と柔軟な思考で問いただしている。
大宅壮一ノンフィクション賞、菊池寛賞など受賞歴も多い。
週刊新潮に『続日本の危機』を連載中。穏やかな表情の裏に熱い闘志を秘めながらはつらつと人生を切り開いていくその姿勢は、私たちに大きな勇気を与えてくれる。

◎大学時代にハワイで出会った女性達の働く姿がその後の人生に影響を与えた

気さくな笑顔と、おっとりした口調。相手をフンワリ包み込むような優しい雰囲気を持つ一方で、セスナの操縦桿を握って空を飛び、歯に絹を着せぬ論調でさまざまな問題に鋭くメスを入れていく。
そんな相反する不思議な魅力も、櫻井さんの根強い人気の秘密だ。
父親が貿易会社を経営していた関係で、終戦の年にベトナムのハノイで誕生。1946年に日本へ引き揚げてきた。
やがて父がハワイにレストランの支店を開いたのをきっかけに、渡米してハワイ州立大学に進む。
さぞかし女性の自立に理解ある家庭に育って…と思いきや、意外にも「父は女の子は結婚して主婦になるのが一番幸せという考えの人で、だから私が仕事を持った時も随分反対したんですよ」と当時を振り返って、感慨深げにこう語った。
そのうえ、櫻井さん自身も「生まれは南国のハノイだし、ずっとのんびりと育った」という。
しかし、ハワイでの日々はその後の生き方を方向づけるひとつの大きな転機となった。
「大学で過ごすうちに、女性が働くのは当たり前という感覚になってきて、仕事をしないなんてことが夢にも考えられなくなった。
とても素敵な女性教授がいたし、そもそもハワイという土地自体、観光地なので、女性がたくさん働いているんです。
そういう意味でも、ここで受けた影響は大きかったですね」大学卒業後に帰国してからは、正に水を得た魚のように、さまざまな分野でその才能を発揮していく。
『クリスチャン・サイエンス・モニター』紙の東京支局勤務を皮切りに、アジア新聞財団東京支局へ入局後、支局長に就任。そして80年から96年3月まで、日本テレビ系『今日のできごと』のニュースキャスターとして、年代を問わず幅広い視聴者の人気を得たのはご承知の通り。今日に至る、女性キャスター登用の道を切り開いた。
「日本テレビはニュースそのものを女性が仕切った、一番最初のケースだったんですよ」。
そう語る顔は、パイオニアとしての自信と誇りに輝いていた。

◎日本人の自己責任を問う介護保険制度受け身でなく介護を選ぶ意識を大切に

ジャーナリストとして政治経済から医療、教育などさまざまな問題と日々向き合っている櫻井さんが、今もっとも関心のあるもののひとつが、高齢化社会についてだ。
高齢化の問題は単にお年寄りだけでなく、その社会を支えていく若い世代の問題でもあるが、若者も含めて、「日本人は税金として自分が納めたお金がどこでどう使われているか、全然意識しない不思議な人たちね」と首をかしげる。
「国民は毎年30兆円払っているんですよ、医療保険に。その中の10兆円が老人介護に使われている。
例えば介護用ベッドの費用28万円は、回り回って国民が払っているんです。それなのに、実際のコストすら知らされていない」。
では納税意識を高めるためには、どんな方策があるのだろうか。
「私は源泉徴収制度はやめるべきだと思います」。櫻井さんは、きっぱりと断言する。
「これはナチスドイツの戦費徴収法をまねたものなんですよ。それがいまだに続いている。
サラリーマンは給与から強制的に天引きされるだけで、税金がどんな使い方をされているのかわからない。
取れるところからしっかり取って、使い方はいい加減とはどういうことだという意識を持たないと、高齢者が多くなってくると、前より少ない介護しか受けられなくなる。
自己決定ができない人には大変な時代になりますよ。
しかしその反面でコスト意識が高まるし、病院の方も同様に選ばれ淘汰されていきますから、患者に評判が悪ければつぶれてしまう。私はそれはすごくいいことだと思います」。
個人の負担増を懸念する声に関しては、日本には3つの選択肢があるという。ひとつ目はデンマークやスウェーデン式の、高い税金を徴収する代わりに高福祉も保障する方法。
ふたつ目は、アメリカ式の安い税金と大きな自己負担。最後は、他のヨーロッパ式諸国と同じ中間型だ。
さらに「これからの日本はどのような福祉を目指すのか、きちんと自己決定して進んでいかなければなりません」とつけ加えた。
今の日本は腹の立つことだらけだが、「みんなが腹を立てれば、必ず世の中は変わります」という櫻井さんの力強い言葉に、大いに希望を託したい。