多湖 輝さん 心理学者

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1998年09月-月刊:介護ジャーナル掲載より(当時72歳)

人生を人任せにせず70歳からでも元気に生きよう!

東京大学文学部哲学科で心理学を専攻後、心理学研究のかたわら『頭の体操』など斬新な発想で数々のベストセラーを生み出してきた多湖さん。
講演やラジオ、テレビでの活躍も盛んで、心理分析のみならず教育問題、高齢者問題、創造性開発など幅広い分野で研究・発言・執筆を行っている。
特に最近は『六十歳からの生き方』『人生計画の立て方』などがベストセラーに。現在、千葉大学名誉教授。

◎お年寄りを赤ちゃん扱いレベル低い日本人の人権感覚

高齢者の問題や生き方についても、講演や著書などにおいて盛んに発言を続けている多湖さん。
彼は日本人の高齢者に対する接し方について、「悪気はないが、往々にして赤ちゃん扱いになる」と指摘する。
自身も72歳と立派な高齢者だが、「私がもし介護される立場になったとして、頭がしっかりしていたら、若い人にそんな扱いをされたらたまらない」。
もっとも福祉が進んでいるといわれる北欧では、どんなに頭が呆けていようが関係なく、お年寄りの人格や人権に最大限の配慮を払っている。
また仕事柄、若い頃アメリカの精神病院でいろんな治療現場を見てきた多湖さんは、ある時、治療の様子を「8㎜カメラで映していいか」と医者に尋ねたことがある。
その医者が、一人ひとりの患者に説明を始め、OKかどうかを確認するのを見て、「精神病患者はそういう判断ができない人たちだから医師が許可すればいい」と思っていた多湖さんは驚き、感心したそうだ。
ところが日本ではいまだに、お年寄りの生きてきた人生への思いやりや尊敬が欠落しており、それゆえに“子ども以上に世話が焼ける人たち”という意識がまだまだ根強いのだと多湖さんは痛感している。

◎40歳から家族ぐるみで友達づき合いを年を取ってからでも“まず動く”こと

一方、上手に老いるということもまた大切なことである。
多湖さんの持論は「40歳代からのつきあいは、年寄りになってからのことを考えてするべき」というものだ。仕事や肩書きだけでつき合ってきた友達は、年を取ればどんどん離れていく。人間の魅力で互いに愛し合い、信頼し合っている友達とだけ息長くつき合えるというのだ。「だから僕は40歳代からは家族ぐるみ、少なくとも夫婦単位のつきあいをしようと、集まりにはできるだけ夫婦一緒に参加しています。おかげで僕は孤独で寂しいなんてことはありません。また、遊びに行くにしても、いつも同じ人とばかりではなく、ひとり別の親しい人を連れてきてもらうんです。すると友達の友達と知り合いになれる。そういうことを続けていけば、無限に人間関係が広がっていく」。
もちろん、若い頃からそういう生き方ができればベストだが、多湖さんは「年を取ってからでも友達を作ることはできる」と高齢者にも積極的に呼びかけている。大ベストセラーになった著書『まず動く』でも、題名通り“70歳からでも元気に生きよう”“とにかく一歩踏み出してみよう”“自分で思いつかないなら行政がやっている教室でも行ってみよう”と提唱する。
「道を歩いていても、俳句を作ったり写真を撮ろうとする人と、ただ花を踏んづけて通り過ぎていく人とでは頭の使い方が違う。環境や人とどうかかわるか考えながらいろんなものを吸収していく人は絶対に呆けない。
3日坊主でもいいからまず動いてみることです」。

◎指示待ち族では幸せになれない人生の末期に設計と覚悟を

このように多湖さんが提唱するのは“日本人は指示待ち族である”という分析による。
定年になって“自由に生きてください”といわれても呆然としてしまう。
高齢者向けセミナーで「定年後のスケジュールをイメージして書いてください」といわれると、3日目ぐらいまで毎日“ゴルフ”と書いて、あとは何も書くことがない。
それぐらいみんな無防備で、行政が、会社が、きっと何かやってくれると思っている。
「この国には自分の人生を自分の意思で生きるという発想の人はほとんどいない。でも発想の切り換えがない限り、高齢者の幸せはあり得ないんです」といいきる多湖さんは、この国の政治のあり方にも明確に言及する。
高福祉をやろうと思えば行財政改革をきちんとやる、規制緩和も単にやればいいというのではなく、日本人の体質に合った形の規制は残し、世界に開かなければならないところは開く、税金の取り方ももっと合理的に考えて負担できる部分は負担をする…。
「ノルウェーなどに行って、“老後の蓄えは”と聞くと、“税金を預けてある”というんですね。
われわれが北欧のようにしたければ、みんなが合理的な仕組みを考えて作らないといけない。
それをしないで、金も出さないで、北欧並みにといったってダメですよ」。
自分の人生の末期をどういう風に生きるのか、自分なりに設計と覚悟をしたうえで、この介護時代に対応していくこと。
自分の人生を人任せにはしないで生きていくこと。
そして、介護する側も高齢者の人格を認めながら接すること。
それが多湖さんの願いである。