樋口恵子さん 評論家

このエントリーをはてなブックマークに追加
1994年08月-月刊:介護ジャーナル掲載より

「高齢化対策に女性の声を?老いにかかわり10年、健康法は眠ること」

女性、老人を中心にさまざまな社会問題について評論活動を続けている樋口恵子さん。多数の著書をはじめ、テレビや新聞、雑誌などでの論理的で的を得た語り口には定評がある。代表を務める「高齢社会をよくする女性の会」は発足して12年。62歳(当時)の今、自らの老いについても専門家らしい目で語られた。

大学での講義、原稿執筆、シンポジウムへの出席などなど、樋口さんの毎日は仕事を中心に超多忙。「ですから、ライフスタイルと呼べるようなことは何もしてないわ。新聞社から健康法を聞かれたときも、何にもしてませんって言ったらあきれてやめましたしね。ただ、眠ることには気をつけてます。眠るのが好きだし、7〜8時間は眠ってますね。それから家事の中では唯一イヤでないのが、食事づくり。それぐらいですね」

●老いにかかわって10年、世の中、変わってきた

樋口さんが“言い出しっぺ”の「高齢社会をよくする女性の会」は、発足して12年。「ちょうど私の周りで、親を介護するために仕事をやめざるを得ない人が続出してきたときで、社会慣習はそれを当然のこととして何の手当もしていないわけです」
女性問題の専門家として、男女平等という視点から見たとき、一生のさまざまな格差が利子をつけてなだれ込んでいるのが老いの部分で、いや応なく老いへ目が向いたという。
「`82年といえば国際婦人年の後半にあたる年で、男女平等、女子差別撤廃条約なんてことが言われてたにもかかわらず、そういった女性の状況について何も視野にないわけです。高齢化対策に女性の声が入っていないんです。だから、まず私たちが実態をアピールしなきゃということでスタートしました」
すると、単に会合を開くだけではなく、もっと永続的にやるべき、地域のネットワーク機能も作るべきという声が出て、現在、100グループ、1500人の会員を持つまでに。シンポジウムは今年で13回目になる。女性の視点からの調査研究、実態把握に基づいた社会への啓蒙、広報活動をはじめ自治体や政府にさまざまな政策提言をしてきた。
「10年やってきて、世の中変わってきましたよ。高度成長期には、老親の扶養と子の保育は家族の責任であるという家庭基盤充実政策を、当時の自民党政権が打ち出したわけです。でも近年の厚生白書は、家族だけで介護は果たせない、介護は社会に責任であると言っています。その世論形成に私たちがひっぱってきた力は大きいと思っています」

●理想の老いを求めて新しい時代を生きる

国民のほとんどが長生きするという、これまでに経験のない時代を迎えて、手さぐりながら、新しい老いを考えたいという。
「長生きはいいことばかりじゃなくて、身体の障害や衰えを抱えねばなりません。それをどう受け入れながら、尊厳ある弱者に変容していけるかということが課題だと思うんです。ボランティアを含めた他者のサポートに対して感謝し、心を開くと同時に、イヤなことはイヤと言えるそういう老いをやっていかなきゃいけないと思っています」
もはや家族だけでは老いを支えきれない、社会的な政策を新しく作らなければいけないときに来て、樋口さんは「今は何もないところから始めなきゃいけないとき。それはまた理想を作りうるという意味で、新しい伝統の初期にあたる時代だと考えて生きていきたい」と、専門家ならではの意欲を燃やしている。